元(株)援農みのり取締役専務
北播磨山田錦「語り部」メンバー

矢野 義昭さん

Profile
昭和26年、三木市吉川町で代々農家を営む家に生まれる。昭和48年より山田錦の栽培に従事。令和2年に北播磨山田錦「語り部」のメンバーに選ばれ、兵庫県産山田錦の普及・啓発活動に取り組む。


日本酒は、
日本が世界に誇る食文化。
その一端を我々が担っている。

2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、海外でも日本酒を楽しむ人が増えています。和食ブームを追い風に日本酒の輸出量が伸び続ける中、我々生産者には「日本の食文化の一端を担っている」という矜持があります。山田錦は栽培が難しい品種だと言われますが、実は「種としての育てにくさ」よりも「一国の食文化を背負っている」という心理的な負荷のほうが大きいかもしれません。それぐらいの気概と誇り、責任を感じながら、日々の酒米作りに取り組んでおります。

農家は「毎年一年生」

ちょうど田植機を導入した年から50年にわたり、山田錦の栽培に携わっています。しかし「今年の出来は100点満点!」と思えた年はまだありません。もちろん毎年100点を目指していますが、私たちの相手は「自然」。全く同じ気候条件の年はなく、思いもよらぬ災害に見舞われることもしばしば。だから自らを「毎年一年生」だと思い、これまで培った経験や知識を総動員して田んぼと向き合うのです。一年生の気持ちで謙虚に最高点を目指す。農業はその繰り返しです。ちなみに今までの最高点は90点。もちろんこれからも記録更新を狙っていきます。

生産者と蔵元の信頼の証
「村米制度」。
責任感と誇らしさは表裏一体。

北播磨では明治20年代から「村米制度」と呼ばれる契約栽培が行われています。酒蔵が毎年同じ生産者から酒米を買い上げることで、互いに切磋琢磨しながら品質の向上を図ってきたのです。生産者は自分の山田がどこのなんという酒になるか分かっているので、当然、仕事に熱が入る。「〇〇の酒の味は自分が支えているんだ」という自負があるんです。しかし裏を返せば、酒に対する評価がそのまま自分への評価にもなる。これは相当なプレッシャーです。その分、いい酒ができたときには、何物にも代えがたい誇らしさを感じますね。

北播磨がこれからも
日本一の山田の里であり続けるために

兵庫県の山田錦は酒の作り手だけでなく、全国の日本酒ファンからも高く評価されています。しかし農家の現状に目を向けると、就農人口の高齢化は待ったなしの状況。農業従事者のボリューム層は70代で、次世代の育成が喫緊の課題となっています。農道や川、貯水池を適切に管理していくことは、そのまま地域の環境を守ることにも繋がります。地域の未来のためにも、まずは農業を若者にとって魅力的な職業に変えていくこと。酒米作りの「伝統」を「伝説」にしないために、農家の法人化やスマート化など、さまざまな角度から改革を推し進めることが急がれます。

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